生物多様性とは何か (5)「日本国内で直面する生物多様性問題」

生物多様性とは何か (5)「日本国内で直面する生物多様性問題」

前回は世界全体の生物多様性危機をデータとともに概観しましたが、日本国内も例外ではありません。生物の絶滅リスクや生息地の劣化、気候変動との複合的な影響など、深刻な状況が進行中です。本稿では、国内で顕在化している問題と事例を、公開データや公的報告に基づいて整理します。

1. 絶滅危惧種の増加と分類群ごとの危機状況

環境省レッドリストに見る国内危機

環境省のレッドリスト2020では、最新の改訂で国内の絶滅危惧種は3,716種(海洋種含め3,772種)に達し、前回より40種増加したと報告されています。日本国内では、とくに淡水域に依存する生物が危機的で、脊椎動物の半数以上が何らかの淡水環境に依存しています。

分類群別に見ると、汽水・淡水魚類(全400種)のうち167種(約42%)が絶滅危惧種で、魚類の多くが河川改修や水質悪化の影響を受けています。両性類は66種中22種(33%)が危機に瀕しており、温暖化や病原体の影響で減少が懸念されます。鳥類では700種中97種(14%)が絶滅危惧に指定されています。例えば外来種や環境変化に弱い湖沼の水鳥や、都市化による生息地減少で里地里山の渡り鳥が減少する事例が報告されています。これらの統計から、淡水魚や両生類のように限定された生息地に依存する種ほど、高い比率で絶滅危惧に陥っていることが明らかです。

  • 淡水魚類

    400種中167種(42%)が絶滅危惧種で、近年も種数は増加傾向。河川改修や汚染で生息域を失い、例えば在来魚を捕食するブルーギルやブラックバスなど外来魚の問題も指摘されています。

  • 両生類
    66種中22種(33%)が絶滅危惧種で、温暖化による生息環境変化や、カエル類の病気の拡大などで個体数が減少しています。

  • 鳥類
    700種中97種(14%)が絶滅危惧種で、都市化による里山減少や渡りルートの変化で、チドリやツル類などが影響を受けています。

2.里山・干潟・藻場などの劣化

里地里山(農地・ため池・雑木林などの田園景観)は、過疎化・農地放棄・開発などでモザイク構造が失われつつあります。例えば農地や水路、ため池の管理縮小により里山の自然環境が減少し、多様な生物が暮らす空間が縮小しています。浅海域では高度経済成長期から1980年頃にかけて毎年約40km²の海域が埋め立てられ、干潟や砂浜を利用するシギ・チドリ類が激減しました。これにより、陸水系生態系(淡水・湿地生態系)の種は絶滅リスクが高まっています。近年は都市公園の拡充や水質改善も進みつつありますが、里地里山の荒廃や都会化による生息地減少は依然大きな問題です。

  • 里地里山
    都市化や農業構造の変化で里山の耕作放棄地が増え、モザイク環境の消失が懸念されています。とくに平野部の大規模農地では雑木林や水路が減り、里山に生息する昆虫類・鳥類が減少しています。

  • 干潟
    全国の干潟面積は1945年の約8.26万haから1978年には約5.39万haに減少し、1996年には約4.94万haまで縮小しました。自然な干潟が減ると、そこに依存する鳥類や稚魚の生育場も減少します。

  • 藻場(海藻場)
    藻場面積も1978年の約20.76万haから1992年の約20.12万haへと減少傾向です。藻場は沿岸域の生産性向上や稚魚の隠れ場になっており、その減少は漁業資源にも悪影響を与えます。


3. 生息地の断片化・都市化・河川改修とその影響

都市化の進展で自然生息地は細分化・孤立化し、生物の移動や遺伝子交流が阻害されています。例えば横浜市では1960年代には約1万haあった市街地の樹林地が、1990年代には約3,000haにまで約74%減少しました。このように都市域では森林や農地が住宅地に転用され、ツキノワグマなど広域生息を必要とする種が分断されるなど影響が懸念されます。一方、河川改修ではコンクリート護岸や直線化で川の環境が劣化し、魚類や水辺植物の生息場が失われがちです。しかし国交省は近年「多自然川づくり」を推進しており、横浜市鶴見川水系の梅田川では改修時に蛇行した川筋を残し、瀬や淵、川岸植生など魚類の生息場を再生させる工夫が取られています。このように人工河川整備でも自然型技術を取り入れる事例が増えています。

  • 都市化・分断化
    住宅開発・道路建設で森林や農地が小区画化し、多くの生物が移動しにくくなっています。横浜市では住宅需要増加で市域の緑地が大幅に減少し、その結果生態系の連続性が低下しています。

  • 河川改修
    治水対策として河道を人工化すると魚道障害や流れの単調化が生じます。しかし最近は、護岸を緩やかな自然型にしたり、魚道・湿地を設けたりすることで生息場を整備する事例が増えています。


4. 農林水産業の現場での生物多様性への影響

農林水産業は生物多様性の面でも大きな変化をもたらしています。農業では、機械化・集約化で農地は減少・均質化し、農薬・化学肥料の使用によって生物相も変わりました。農水省の資料によれば、農水林産物の生産量はピーク時に比べて減少傾向にあり、特に漁獲量はピーク時の約半分になっています。農薬使用量は減りつつありますが、耕作放棄地では草地化・湿地化が進み、かえって湿地性生物が増えたり減ったり環境依存的です。例えば国内の研究では、乾田地帯の放棄では両生類や魚類が減少する一方、湿田の放棄地では在来種が増える場合があると報告されています。林業では戦後の造林推進で人工林が拡大し、生産性は上がったものの樹種多様性は低下しています。漁業では、近年の乱獲や環境変化で漁業資源が減少し、周辺海域の水産資源の44%が低位と評価されています。これらの影響に対応し、環境に配慮した農法(有機農業など)や森林管理、漁場再生の取り組みが求められています。

  • 農業
    集約農業により農地・農業用水路などが減り、里山生態系の要素が失われています。耕作放棄田は土地条件により影響が異なり、乾燥地帯では種数減少、湿地では一部生物群が増加する傾向があります。耕作放棄田は土地条件により影響が異なり、乾燥地帯では種数減少、湿地では一部生物群が増加する傾向があります。

  • 林業
    木材生産量は近年回復に転じつつあるものの、戦後の植林で針広混交林から人工林への転換が進み、生物多様性が低下しています

  • 漁業
    水産物の総漁獲量はピークの半分程度に落ち込み、沿岸漁業資源の低下が懸念されています。


5. 気候変動による国内影響:フェノロジーの乱れ

気候変動の影響で季節現象の時期にも変化が現れています。気象庁の観測では、日本各地で桜の開花日は年々早くなっており、1953年以降10年あたり平均1.1日早まる傾向が確認されています。一方、カエデ類の紅葉は10年あたり約3.1日遅くなる傾向です。これらは春の高温化や秋の気温変化が影響していると考えられます。また、高山帯では雪解けや気温の上昇が植物の生育時期に大きく影響します。北海道・大雪山の調査では、1℃の気温上昇により高山植物の開花期間が約4日間短縮し、温暖化による雪融けの早期化も併せると全体で約5日間開花シーズンが短くなると予測されています。こうした開花・結実時期の変化は、昆虫の生活周期や動植物間の相互作用にも影響を及ぼすため、生態系全体への波及が懸念されています。

  • 桜の開花
    全国の観測結果で、1953年以降に桜(ソメイヨシノなど)の開花日は着実に早まっており、温暖化との関連が示唆されています。

  • 紅葉・黄葉
    カエデ類などの紅葉開始日は年々遅くなっており、秋の冷え込みの遅れが影響しています。

  • 高山植物
    高山帯では温暖化で雪解けと平均気温の変化が進み、1℃上昇で開花期が約4日短縮するという解析結果があります。今後も高山植物や里山植物の生育時期の変化が続くと予想されています。


6. 外来種による影響

近年、外来生物による生態系への影響が深刻化しています。哺乳類ではペットや動物園から逸出・放逐されたアライグマ・ハクビシン・ヌートリアなどの分布が全国的に拡大中で、農作物被害や伝染病リスクを増大させています。アライグマは器用で適応力が高く、北海道から九州まで定着し分布域が著しく広がっています。これらは特定外来生物に指定され、捕獲駆除が進められています。鳥類・両生類・魚類にも外来種の侵入が影響します。例えば河川や湖沼に放されたブルーギル・ブラックバスは在来淡水魚を減少させ、駆除・管理の対象となっています(環境省外来生物リストに指定)。植物ではセイタカアワダチソウやオオキンケイギク、海岸植物のオヒシバなどが在来植生を置換し、生態系の構造を変えています。これら外来種への対策として、国内外来種の最新分布調査や防除マニュアル作成などが環境省等で行われています。

  • 哺乳類

    アライグマ・ハクビシン・ヌートリアは1970~80年代以降に多数輸入され、各地で野生化しています。最新の調査では北海道や東北を含め広範囲に分布拡大していることが報告されています。

  • 魚類・両生類

    ブラックバスやブルーギル、ウシガエルなど外来種は在来種を捕食・競合し、湖沼や河川の生物相を撹乱します。多くが特定外来種に指定され、駆除対策が行われています。

  • 植物
    湿地や水路を中心に外来植物も拡大しています。干潟に侵入する外来藻類や、水田畔の外来雑草も在来植生の侵食要因となっています。


7. 沿岸域の水質悪化・藻場減少・里海保全の動向

沿岸域でも水質汚濁や生物多様性の低下が問題です。高度成長期以降の公害対策で水質は改善傾向にありますが、有明海や瀬戸内海など閉鎖性海域では依然として富栄養化や赤潮の発生が懸念されます。一方、瀬戸内海では1979年に年間172回観測された赤潮が2019年には58回に減少するなど、一部で改善の動きも見られます。しかし国立環境研究所の調査では、わが国周辺水域の水産資源の44%が低位であるとも報告されており、生物資源の減少が課題です。藻場・干潟は引き続き減少傾向にあり、前述の通り干潟面積は歴史的に大幅に減少、藻場も1978~92年で微減しています。こうした問題を背景に、近年は里海(Satoumi)づくりの取り組みが全国的に広まりました。里海とは「人の手が入り生産性と多様性が高まった沿岸域」を指す概念で、2000年代以降は「人が自然と調和して暮らす海辺」という広義の意味で捉えられています。環境省の里海創生事業などで流域一体管理が推進され、2021年には瀬戸内海環境保全特措法も改正され「きれいで豊かな海」づくりが目指されています

  • 水質・赤潮
    工業排水や農業流出により、水質汚濁や赤潮発生が問題化してきましたが、対策で瀬戸内海の赤潮回数は減少しています。一方、東京湾や有明海では貧酸素や赤潮が報告され、生態系影響が懸念されています。

  • 藻場・干潟
    沿岸の生息場は長期的に縮小しています。干潟は歴史的に約半減し、藻場も減少傾向にあります。藻場・干潟は水質浄化や生育場として重要であり、保全策が求められます。

  • 里海(Satoumi)
    里海づくりは日本発の概念として国内外で注目され、沿岸海域の復元や地域振興と連携した管理手法として各地に広がっています。漁村型・都市型など多様な形態で里海再生の事例が増えており、地域住民と行政が協働して「藻場再生」「流域管理」などに取り組んでいます。


8. 再生・保全の取り組み

現在、国・自治体・市民レベルで多様な再生・保全策が進められています。まず多自然型川づくりでは、河川の護岸や堤防工において、コンクリート化を抑制し、自然植生や湿地を残す工法が採用されています(梅田川の事例など)。緑地保全・都市緑化では、横浜市の「市民の森」制度や森づくりボランティア、公園緑地の大幅拡充などにより、面積的・質的な保全が図られています。ビオトープ構築も盛んで、環境省や自治体は学校・企業・公共施設にビオトープを設置・管理するモデル事例を推進しています。また、里海創生では2008~10年度のモデル事業で七種の里海類型(流域一体型、漁村型など)が示され、全国に里海ネットワークが構築されました。さらに自然共生型農法や里山再生活動も活発化しており、有機農業の支援や里山管理人材育成など、里地里山の保全・再生が進められています。これらの取り組みは、単に自然を残すのではなく、人々の暮らしと結びついた形で生物多様性の回復を図る「人と自然の共生」に主眼が置かれています

  • 官民連携の緑化・再生事業
    国や自治体は「多自然川づくり」や「みどりの保全地区」指定などで野生生物の生息空間を確保・創出しています。

  • 市民・NPOの活動
    ボランティアによる里山整備や市民養蜂など、地域住民が主体となった保全活動が全国で広がっています。横浜市の森づくりボランティア事業など、官民協働の好例が数多く報告されています。

  • ビオトープ・緑の回廊
    学校や企業も生態系に配慮した池や湿地を作り、官民一体でビオトープ設計・管理を推進しています。都市では屋上緑化や街路樹の整備も進められ、分断された生息地をつなぐ緑のネットワークづくりが重視されています。

次回は、国内の生物多様性問題が、私たちの暮らしや産業に具体的にどう影響するのか、さらに深く掘り下げていきたいと思います。

【出典、参考文献】


※OFLAは、自然とともに生きる未来を支えるため、今後、本製品については販売する製品の売上の一部をライチョウの研究・保護活動に寄付します。

(NEW!) 寄付対象製品 WASHI-100 Long Sleeve Tee をお買い求めいただけます!

他の動植物、生息域の保護活動寄付も今後予定しております。

Instagramでも随時情報を発信していきますので、是非フォローをよろしくお願い致します。

ブログに戻る
ハーフハンカチ|2つの大自然を一枚に。

この物語を身につける

ハーフハンカチ|2つの大自然を一枚に。

¥1,980 ― 売上(税抜)10%はニホンライチョウ保護活動へ